不輝城夜話 同じ雨に当たること

不輝城では、会うに会えない者や、遠くのものの消息を知りたいとき、わざと雨具をまとわずに外へ出ることがあるという。

それも、ただ出るのではなく、雨を讃え、地面の流水を踏むことを詫び、謙虚に爪先だって、その機嫌を取るようにせねばならない。あるいは、外へ出る前にきれいに体を洗って、靴もはかず、裸のまま歩き回るのも良いとされる。

そのようにして一歩ごと、祈るたびに止まっては、雨に耳をかたむける。ざわめく水に染まった耳が、雨の声を聞くように。

なんでも、消息を知りたい人が、同じ雲から落ちた雨に降られていれば、その肩に触れたときのことを、雨が教えてくれるという。頬を撫でた感触を、指に伝えてくれるという。

また、答えのない物思いにふける人のことを、不輝城では「雨乞い屋」とからかうことがあるのだとか。

シェーネには、当地にあった生命の実をつけるスモモの木の守護者が、英雄ロデにそそのかされて、はるか北のオクタシオンの森に出掛けていたとき、森の木から滴った雨が、彼のスモモの最後の花の落ちたことを語り、守護者の心臓を止めてしまったという昔話が伝わる。