次の朝、リリはさりげなくカレンに昨晩の夢見を尋ねてみた。カレンは良くぞ聞いてくれたとばかり、悪夢について話し出した。
「でさ、最後に、ちょっとリリも出てきたよ。あの、お寺の天井に書いてある竜の子供版みたいのに乗っててさ、で、『あ、リリだ、助けてー』って思ったら、いきなりがっくり穴にハマって。目ぇ覚めたら、ベッドから落ちてた。マジ笑ったよね夜中に」
リリはそれを聞いてにっこり笑った。
「良かったね、カレンちゃん。もう悪い夢、見ないからね」
思わずそう言ったリリをカレンは不思議そうな目で見たが、すぐ「頼りにしてる!」と言って、次の話題に移った。
リリの忙しい生活は、そこから始まった。カレンの次はルリが夜な夜なうなされるようになった。リリはハイドランジアと一緒にルリの夢に乗り込み、ルリの夢を荒らしていたケモノからルリを助けた。
やはりハイドランジアとリリの姿を覚えていたルリが翌日学校で話したので、カレンが笑いながら「リリ様様だね」と言ってからかうと、リリは不敵に微笑んで見せた。
夢の中の景色は、これまで見たどんな場所より美しかったし、クラスメートたちの夢をひそかに守る『仕事』はリリに自信を持たせてくれた。
特にすばらしいのは、ハイドランジアの目を通して見る、水源の世界の景色だ。そこを自由に泳いでいくのは、この上なく爽快だった。
朝、鏡の前で髪をとかしている時、リリはふと自分の顔の違いに気がついた。上目遣いの、おどおどした情けない顔ではない。嫌いだった自分の顔が、それほど悪くなく思えた。
これまで、クセ毛でどうしようもないと思って全自動でお下げにしてきた髪を肩に流したまま、鏡の中の自分を見つめてみる。
そんなに悪くなかった。髪も、顔も。
母親は常々、リリの顔を見ては「何てつやつやした頬っぺなんでしょう」と言っていた。その通り、ニキビの一つもない滑らかな頬だ。典型的なだんごっ鼻なのは仕方ないが、目は大きくてまつ毛が濃い。
(え?)
物心ついてから殆ど初めて、こんなにまじまじと自分の顔を見て。
リリは自分の左目が青みがかっていることに気がついた。
(ハイドの目だ)
率直に、リリはそう思った。左目を貸すとは、そういうことだったのか、と。
ふっと綻ぶように微笑んで、リリはブラシを片付ける。セーラー服のウエストも、一回だけまくってみた。丈が短くなると、それだけスタイルが良く見えた。
今日はこのまま学校へ行く。