特典小説プロローグ

ヤマノ運輸の危機

緑一色に塗られた店舗の入り口に、数本ののぼりが立ててあった。

『異世界へのお届け物は、任せて安心!ヤマノ運輸』

黒い犬のマスコットが描かれたそれは、時々竿ごと回ってしまうほどの強風にあおられている。引っ切り無しにはためいているせいで、クロイヌの表情まで歪んでいるように見えた。

実際、ヤマノ運輸は、配送中に起こった重大事故で揺れていた。

というのも、顧客から預かった荷物を従業員もろともロストしてしまったのだ。

2X14年、人類は異世界を発見した。

古来は神隠し、近代では誘拐や失踪として片付けられていたものが、れっきとした科学的現象だったことが明らかになった。

今では洗車機の親玉のような装置を使って、いつでも異世界への道を作ることができる。場所は陸上でも、川や海でも構わない。

通商や領有権に関する国際的な法整備も整い、ほとんどの主要都市には異世界へ通じる特殊越境道路や航路が設定されている。そういった道を通じて、たくさんの異世界と交易を行う時代になっていた。

ヤマノ運輸は、国際的な認可を受けた特殊運輸事業者の第一号である。

事故が起きる少し前、気象庁が次元嵐流警報を出して、異世界への移動を控えるよう呼びかけていた。次元嵐流が発生すると、行先が全く制御できない上に、装置のログも正しく取れなくなってしまうからだ。

しかし、警報が出たことが知れ渡るより先に、徒歩で荷物を運んでいた従業員の一人が『特道』に侵入した。そこまではログに残っている。そしてその従業員が『特道』を通っている最中に、次元嵐流が発生した。

混乱した大量のログからどうにか推察できたのは、荷物も人もバラバラになってしまったらしい、という絶望的な事実だけ。

どの世界へ、どの時代へ行ってしまったかは、杳として知れなかった。

事故からしばらくして、ヤマノ運輸の取引先の周りでは、こんな張り紙が目につくようになった。

曰く――

『見失ってしまった荷物を探しています。

以下のような荷物をお見かけの際は、絶対に中を開けずに、×××へご連絡ください。

情報をご提供くださった方には、些少ながらお礼を差し上げます。

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