秋の終わりに、崖のふちに建っている嵐の館の壁をこそげるのが、不輝城の恒例行事なのだそうだ。壁は、びっしりと泥団子を叩きつけたような固着物に覆われていて、それを、鉄刃のついた専用の鎌のような道具で、窓から身を乗り出しては、刈り取っていく。
この固着物はたいへん堅牢なもので、大人の男でも取り除くのに苦労する。では、苦労して取ったものをどうするかと尋ねると、べつにどうもしないと言う。
しかし、この巣を落としておかないと、なぜか明くる春にゴマダラモクアミが大発生して、リンゴの木をのきなみ切り倒さなくてはならなくなる。だから何としても、冬が来る前にすべて取ってしまわねばならないそうだ。
ちなみに、その厄介な付着物は、ユウレイツバメの巣だと伝えられているが、姿は誰も見たことがない。春先にふと気づくと壁に付いており、小鳥が入るのにちょうどよさそうな窪みをもっているのだが、いつ覗いても空っぽだという。
「夜しか巣にいないんだろう」
ユウレイツバメについて尋ねた旅人は、聞いた全員からこのなげやりな答えを受け取った。
なにかと忙しい春の時期に、足元の危ない崖っぷちまで、得体の知れないものなど見には行かないものだ。とくに、見ると障るものが五万とあるようなかの城で、つつがなく一年を暮らすためには。