不輝城夜話 御館様の帳のこと

不輝城の主塔には、もはや誰にも使われていない古い寝室があり、そこの寝台に御館様の帳と呼ばれる上等の玄紗を重ねた帳がめぐらされている。

深い憂いをかかえて城を訪れた客人には、その帳を開けて、樫の木の立派な寝台で休むよう勧められることがあるらしい。

そこで一夜を明かせば、素晴らしい知恵を授けられる。ただ、御館様の気に入らなければ、恐ろしい悪夢に苛まれ、なかには朝までに冷たくなっていた者もあったとか。

あるとき急な掃除を言いつけられた召使は、ぼんやりとした月明かりの中、女の影が帳に映るのを見たことがあるらしい。

御館様の姿を見た者は城主を含めて一人もないが、年齢や身分を問わず、男がその帳のうちで安らぎを得たことは一度たりともないそうだ。