夜、眠ると、あの夢がやってくる。
目を閉じて、心音と呼吸を忘れ、意識が暗闇に沈み切るその瞬間――泡のように、水音が浮かび上がる。
肌に温かい水流を感じ、ゆらめく日差しの網を感じ、そして、光の降り注ぐ透明な虚空に、わたしは左目を開けるのだ。
わたしは長い肢体をくねらせて、大きな浮き草の茎や根の間を泳いでいく。まるで空を飛ぶように。水を伝わる音が作り出す、コポコポと心地よいリズムに乗って。鰭が水をつかみ、力強く体を前へ進ませる。
小魚の群れが銀の鱗をひらめかせ、隊列を作って泳いでいる。水底から立ち上がった細い水草が、流れにそよぎながら空気の粒をきらきらと立ち昇らせる。ぱくりと口をあけて味わうと、清冽な緑の味がした。
水底は白い石と砂。水草の間を小エビが歩いているのが見えた。その先では大きな魚が尾で砂つぶをまき上げて、産卵場所を作っていた。カラカラと小石のぶつかる音。ちりちりと鱗が擦れる音。
全ての音が、渾然一体となって耳元でささやく。水の流れを、生命の無言の会話を。水はどこからも流れて来て、どこへでも流れていく。水を介してどこへでも行ける。この世界は水でできているのだから。
右目から涙がこぼれた。その瞬間、知覚する。
これは夢。
現実の呼吸が苦しくなるほどの、狂おしい自由の夢。