ヌガラムガラは洞窟の中に棲んでいる。座りこんだまま大きくなりすぎ、自分で歩くことができずに永劫ずっとそこにいる。
百の口で泣きわめき、あと百の口で息を吸う。百の腕で岩をむしって、もう百の腕でつぶてを投げつける。
自分で自分の耳を聾し、誰の声も聞こえない。自分で降らせる石の雨で体中にけがをして、誰もそばへ寄せつけない。
ヌガラムガラがむしり取るから、洞窟はだんだん深くなっている。今はかすかに聞こえる声も、やがて聞こえなくなるだろう。ヌガラムガラがいなくなったら、森は静かになるだろう。
ヌガラムガラを黙らせたのは、フィリンの放った花だった。顔面を射抜いた矢の柄に、一枝のバラがくくりつけてあったのだ。つぼみであっても甘く香るその花は、見えず、聞こえず、怒り狂って暴れるばかりのヌガラムガラの気を引いた。
ヌガラムガラは静かになった。人間はそれを矢のせいだと思ったけれど、バラの香りがヌガラムガラを殺したことは、フィリンだけが知っていた。