たがため エピローグ

チロ・ディ・ボーロイクは、国の安泰を祈る儀式の贄として志願し、先ごろその役を果たした。直前までは、第七王子でありエンリの養い子となっていたヨエル・アン=グラーニャ・ノス=フィデロスの側仕えとして働き、潔斎の期間に入ってからは、逆にヨエルがチロの身の回りの世話をした。他の神官たちの話しによると、二人は、旧友のように仲が良い様子だったという。

その死後にひそかに処分された契約書には、家族に便宜を図ること、ヨエルにかならず新しい側仕えを見つけることなどが要求されていた。

よく晴れた午後の日差しが、金と緑柱石でかざられた室内をあたためていた。窓から王の都プソムの様子を見わたしているのは、やせた体を絹と銀糸でよろった初老の男だ。神官長エンリは、客人を待っていた。

組子の床に靴音もたかくやってきたのは、リスコーだった。二人は季節の挨拶をかわし、お茶を楽しみ、甘いものをつまみながらしばらく近況について聞きあった後、リスコーがふと話しを変えた。

「そういえば、例の件はうまく行ったようですね」

「ああ、おかげ様で」

「手紙は燃やしました」

「お手数を」

「泣かせますな、家族のために命を捧げるとは。殿下にも『自分の分まで生きてくれ』と書いていましたよ」

「子供というのは他愛ないものです」

上機嫌なリスコーに対して、エンリはそっけなく応じながらも、結果に満足しているらしいのが声の調子にあらわれていた。

「ふふふ……どこまでが計画通りですか?逃げ出した側仕えの口を封じたのも、あの方が罪悪感から閉じこもったのも、ひょっとしてあの方が同情されやすい状況を作り出すための布石だったとか」

「人聞きの悪い。場当たりですよ。あなたが丁度いい人材を見つけてくれなければ、どうにもなりませんでした」

エンリはゆるゆると首を振って、お茶のカップに口をつけた。その薄い唇に笑みをうかべて。